モーターサイクルダイヤリー

ライダース作りのきっかけ【ライダースジャケット制作物語 1話】

2022.1.11
Yuuki Koshiyama

そもそもライダースジャケットを作ろう、なんてことはこれまでに一度もありませんでした。

むしろ「どこのブランドの、どのモデルを選ぼうかな?」と探し回り試着しては結局買わずじまい、なんてことの繰り返し。

それでも心のどこかで『ジャケットが欲しい』と思い続けています。

そうやって、しっくりくる次なるジャケットに出会えないまま、かれこれ10年以上も経ってしまいました。

ライダースジャケット、普段着用?それともライディング用?

実はいつまでも欲しいジャケットが見つからない本当の理由を知っています。

それは、『普段着』として着たいのか、『バイクに乗る時専用』に欲しいのか、自分の気持ちがぼやけているからです。そこにはこんなジレンマがあります。

バイクに乗る時用のジャケットに対する思い

バイクに乗ることを想定したとき、無意識に次のようなことを求めています。

  • 転倒時の防御性
  • カッコよさ
  • 防寒性(あるいは通気性)

過去に、先輩から譲り受けたTAICHIのセパレート式(上下で分割できる)のライディングスーツを着ていたことがあります。

肩、肘、脊椎の保護性はもちろん、分厚いレザーの生地なので少々こけて破れる心配もありません。メッシュ生地になっているので分厚いレザーでありながらもある程度の通気性があり気に入っていました。

しかもボディフィットするため、高速走行でも疲れにくくライディングには本当に適しています。

ただ、プロテクター入りなのでどうしてもゴツゴツしてしまいバイクに乗る時以外にこれを着ることはない、というか恥ずかして着れません。

ある日のロングツーリングのこと。広島ー横浜間の900kmほどを1日かけて走っていました。高速道路を走るのですが、200kmに一度は給油や水分補給、食事などでサービスエリアに立ち寄ります。

ゴツゴツしたライディングスーツで店に入ると、なにやら後ろから小さな娘とその母親のささやく会話が聞こえてきました。

「ねぇ、お母さん。あの人服、なんか変!」

「あの人はそういう人なんだから、ほっといてあげなさい。」

お母さんもずいぶん言葉足らずだと思いつつも、たしかに『変』に映ってもそれは仕方がありません。

背中にはもっこりしたクッション入っているし、ふと窓ガラスに映る自分をみたら、特撮系のヒーローショーにも出演できそうな風貌です。

それを払拭してくれているのが、老舗のライディングギアメーカーです。

老舗のライディングアパレルメーカー。信頼もデザインもいいが、しかし。。

例えば、TAICHI、HYODO、KADOYA、KUSHITANI、DAINESEなど。量販店に並ぶアイテムを眺めているとパーカータイプもあったり、ひと昔前と比べてずいぶんカジュアルなアイテムが揃っています。しかもブラックだけでなくカラーバリエーションも豊富です。

ただ、ここまで量販店などで全国に流通していることに加えて、SNSでもライダーの露出が増えていることもあり、「これいいな」と思っていたアイテムをあちこちで着ているのがつい目に入ってしまいます。

そうなると彼らと被ってしまうことに躊躇している自分がいます。

どのブランドの、どの服を選んでも誰かと被ってしまうことは当然あるのですが、バイクのフィールドに限ると居合わせる場所まで同じになってくるので、お揃いになってしまう率はさらに高くなります。

別にお揃いになってもいいのですが、お揃いのジャケットを着ている人ふと鉢合わせてしまったことを考えると、どんな風に立ち回っていいのかわからなくなってしまうのです。

そんなことから、ライディング用にはすっかり古くなった『型落ち』モデルを探すようになりました。

 

普段着用のジャケットに対する思い

例えば、ライダー用品とは関係のない一般のアパレルブランドから出されているレザーのライダースジャケット。数万円〜数十万するものまであります。

ライダースとはいえ、ファッションとしてのジャケットなのでとりわけライダー向けになっているわけではありません。

過去に買った一着も、とあるアパレルブランドのライダースです。ただ、これをバイクに乗る時にも一時期着用いたのですが、いろいろ不便なことに気がつきました。

ファッションと機能はいつも融合しているわけではない

豚皮のシングルタイプのライダースで、春から秋にかけて着ることも多かったこのジャケット。シングルタイプなのでジッパーがセンターにあるのですが、普段着用の設計のためジッパー裏に一枚風除けの生地をかませてあるわけではありません。山間部や標高の高い高速道路を走ると、このジッパーの隙間から無限に冷たい風が入り込み体を冷やしていきます。

そうなると大変です。想定外のシチュエーションで、くしゃみと鼻水が止まらない上に、涙まで溢れる事態となりヘルメット内ではちょっとしたお祭り騒ぎになりました。

その事件以来、そのジャケットはツーリングでは着用せず、いつも通り普段着として利用することになりました。

普段着にはやっぱり軽いのがいい

普段着専用に戻して気がついたことがあります。ライディングスーツに比べて皮が薄かったためやや心もとなかったはずなのに、普段着になったとたん

「ん?なんか重い。」

と感じるようになりました。たしかに、伝統的なスタイルでいくと牛皮やホーススキンは定番です。重厚感も存在感もあって写真映りもどこか迫力がでてくるのも特徴です。

でも、街中ではできるだけ手ぶらで、軽快にぶらぶらしたい最近の自分にとっては、やはり軽さを優先したいのです。

ハイブランドのライダースジャケットは軽かった

先日、新宿伊勢丹に行ってきました。そしてあるブランドが出していたジャケットがカッコよくて思わず買うところでした。『一生モノ』すっかりこの言葉の自己暗示に酔っていました。

もう一度冷静に判断するために、他のブランドもしっかり見て、試着し、コンセプトや材質、裁断、製造まで詳しくショップ店員に話を聞いて回ることにしました。

面白いことがいくつかわかりました。ハイブランドが手がけているジャケットの素材は意外にもシープスキンで仕上げられた軽量のものが多かったのです。

そして、製造国のほとんどがインドです。ハイブランドの数十万するレザージャケットのクオリティをインドの職人たちが担っています。

さらに興味深かったのは、同じライダースジャケットの型で、値段が全く違うものが存在した、ということです。

どちらも世界的に知られるハイブランドですが、一つは20万円。もう一つは45万円。違うのはちょっとしたディテールだけです。

自分にも作れるかもしれない

インドでの人件費や材料費など考えると、製造原価のコントロールもかなり余白がありそうです。

当然、ブランドにしか出せないコンセプト、ブランドだからこそかかる高額なマーケティングコストもあります。原価だけでファッションを語ろうとは思いませんし、そういう話ではありません。

この一連の流れで、求めているものがわかりました。本当に欲しかったのはライディング用ではなく、普段着として身軽に羽織れるタウンユース用だったのだと。

そして『これなら自分でつくれそうだ』と。

 

レザーのライダースジャケットを作ってみる

これまでの出来事を簡単にまとめます。

  • バイク専用のアパレルメーカーのものは、他のライダーと被ってしまいがち。だから型落ちモデルをいつも探している。
  • 普段着のライダースジャケットはかっこいいが、走行環境に向いているとは限らない。
  • かといって、普段着が分厚い牛皮やホースだと街中をぶらつくには重さを感じてしまうから、軽いのがほしい。
  • 世界の名だたるハイブランドは軽い素材としてシープスキンを採用。生産国はインドで、新興国ではあるがハイブランドのクオリティに応えられる技術が十分ある。

そして、これまで散々いろいろなジャケットを探してきましたが結局買わずじまいになっているので、この際『ライダースジャケットを作ろう』と思ったのが、この企画すべてのはじまりです。

パッドなどが入っているライディング用ジャケットは、他のメーカーさんに任せようと思います。安全なものは特に老舗ブランドにさらに良いものを作ってもらいたいです。

でも、普段着のライダースジャケットは、わがままに私の思いをぶつけて作って欲しかった一着を作ってみたいと思います。

ライダースジャケットって、意外とバイクに乗る時より普段着で着たかったりしませんか?

既存のライダースジャケットに対する不満点

ライダースには概ね決まったパターンがあります。極端にいえば、シングルかダブルかの大きく2種類です。

ぱっと見ではそれがどこのブランドのものか特定するのは難しいといえます。それなのに、価格もバラバラで際立った特徴もいまいち掴むことができません。

そんな既存のライダースジャケットに不満点が3つあります。

1. 重厚感はあるけど、印象通り本当に重い

確かに、重厚感のあるものに憧れていました。しかもつい最近まで。なんならホーススキンを探していたくらいです。普段着として着るのもかっこいいのですが、でも羽織ってみるとやはり重く、できるだけ軽快に街をぶらつきたいと考えたときには重さは億劫になってしまいます。

既存のライダースジャケットは、重厚感があってしっかりしすぎているか、どこか頼りない印象のペラペラな裁断になっているか、その両極端です。

できることなら軽いのに見た目もしっかりしているものが欲しい。これを巧みに表現しているのがハイブランドのジャケットでした。

2. 裏地がつまらない

どのジャケットも結局どれも黒い生地になりがちです。かといって、チェック柄や蛍光色の裏地は人を選んでしまいます。その意味では、黒の利点が多いからそうなっていることもよくわかります。

汚れが目立ちにくい。当たり障りないのでより多くの人に選ばれやすい。

たくさんのジャケットを見すぎたせいで、もしかすると自分自身が刺激を求めているだけかもしれません。でもどうぜ表からみてどれも同じような形なのであれば、裏地くらい特別なカルチャーを感じさせてくれる特徴のあるものがあってもいいと思うのです。

3. 腰回りのベルトはいらない

特にダブルによくある伝統的なスタイルなのですが、腰回りにベルトが付いていることがあります。バイクに乗る時なんかは前のジッパーを閉めて腰回りも閉めるとシルエットが引き締まりロックな感じでかっこいいのですが、いざ普段着として着る場合には前を開けることのほうが多いのです。

そうするとベルトが遊ぶことになることに加えて、やはり重さにつながり軽快さの足を引っ張ることになります。

タウンユースをメインにする場合には、飾りだけに終わってしまいその役割を果たすことはないだろうな、とずっと思ってきました。

 

アンダーウェアを作っていた過去の経験

実は、過去にアンダーウェアのブランドを立ち上げたことがあります。

UNDER X COREというインナーウェアブランドなのですが、今では全国のセレクトショップや阪急や西武などの百貨店でも取り扱いのあるブランドになりました。

香港人のグラッフィックデザイナー、Barry Kanとと共に世の中にないアンダーウェアを世に送り出そうと作ったブランドです。

このデザイナーのBarryとは大学の時からの友人で、彼のデザインの大ファンでもあります。

今はアンダーウェアからは離れていますが、Barryとは頻繁にやり取りをしていたので、このレザージャケットの企画を話してみることにしました。

ジャケットの裏地のデザインを手掛けてほしい

個人的にBarryのデザイナーとしての才能を誰よりも高く評価していると思っています(笑)。アンダーウェアの作品も長年見てきましたがどれも楽しいものばかりです。

そこでBarryに単刀直入に「レザージャケットの裏地、バリーのデザインでやりたいんだけどどうかな?」

「いいよ、ちょうどレザージャケットも作れるようになったし。インドで。」

世界のレザージャケット生産国、インドと直接取引

「インドの工場で直接取引できるの?じゃ、早速なんだけどバリーのこのデザインで実はジャケットを作りたいと思ってる。形はダブルがいいと思ってる。できるかな?」

「じゃインドに聞いてみるわ。」

こうしてジャケットの製作の企画の歯車が動きはじめたのでした。

 

つづく。

ブランド名の決定【ライダースジャケット制作物語 2話】

『TOKYO SHIBUYA 246』【ライダースジャケット制作物語 3話】

現在先行予約受付中!

現在、製作中なのですが先日正式にインドの工場と契約を結んだので、先行予約を開始しています。

STAY RIDER The Shopでご覧いただけます:

https://stay-rider.stores.jp/items/61eff3cd423f6a57b93a74a8

 

(画像:STAY RIDER The Shop 『TOKYO SHIBUYA 246』)

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