ライダースージャケット。これはバイク乗りのシンボルであり、フォーマルでもあります。どのようにしてライダースジャケットは誕生したのでしょうか?そこにはライダーたちのカルチャーとパッションの歴史があります。今回はちょっとだけ、その歴史に触れてみたいと思います。
はじまりは1930年ごろ。諸説あるのですが、1928年にIrving Shottという人物がデザインしたと言われています。 いまでもライダースジャケットと言えば『Shott』といわれているほどで、ニューヨーク発祥の老舗中の老舗アパレルメーカーです。
1913年、ロシア移民の子としてアメリカにいたIrving Shott と Jack Shottの2人の兄弟はマンハッタンでレインコートの製造販売を営んでいました。そして1928年に、ジップアップ式、ダブルの革ジャン、しかもモーターサイクル用として『Perfecto』が誕生しました。小売価格は5.50ドル。今の価格でいえば1万円程度だと言えます。
当時はボタン式のものが主流だったことを考えると、ジップアップ式のレザージャケットは超クールだったのではないでしょうか。新しく斬新だったはずです。
時を経た今でも、ライダースのジッパーを上にあげて閉じる仕草には情緒があります。
Shott社も、もともとはレインコートのほか、軍用のピーコートやフライトジャケット、警官制服を手がけており、従来品の多くはボタン式でした。Irving Shottのデザインしたライダースはジップアップ式で、バイクにまたがった時の絵は多くの人を魅了にしたちがいありません。
当時は戦争という背景もあり、心身ともに傷ついた若者で溢れていました。特に、アメリカの帰還兵たちにとってモーターサイクルは戦場と平和のギャップを埋めあわえる格好の対象となったことでしょう。
Shottなど、複数のブランドが確立されライダースジャケットも高級化していきましたが、戦場で活躍した帰還兵たちにはバイクを買う予算もあれば、高級ジャケットを買う予算もありました。
そして、こうしたライダーたちは日常的にライダースジャケットを身に纏うようになり彼らのアイデンティティを象徴するアイテムとなります。
それまでは防寒や雨具として機能が求められているアイテムが、ファッションとしてのアイコンになったのです。
イギリスでもモーターサイクル熱が加熱していました。ただアメリカのライダーのようにバイクやファッションに投じられるほどの潤沢な資金がありませんでした。戦後のイギリスは国家そのものが弱体化していたためです。
Shottのようなブランドものジャケットに憧れつつも、予算内に収まるように無名のジャケット、場合によっては合皮の廉価ものを羽織りカフェからカフェへと繰り出していたのだと想像すると、彼らの努力とパッションに対するリスペクトの気持ちも芽生えてきます。
ブランドものではないジャケットをどうすればカッコよくできるのか?彼らが走った先は『カスタム』です。バッジやワッペンで装飾したり、鋲を打ち込んだりペイントを施すことでオリジナルのジャケットを作っていたと言われています。
この頃の英国ヤングたちもまたロック音楽に傾倒し、いつもライダースを纏っていました。世間は、彼らをロッカーズと呼ぶようになります。
こうして、イギリスは独自のモーターサイクルカルチャーが育まれていきました。
ライダースジャケットの歴史の中で、映画が大きくライダーカルチャーを後押ししてきました。バイク、ジーンズ、そしてライダースジャケット。このイメージを色濃く世界に植え付けることになった二つの作品を紹介します。
バイクに乗って街に繰り出し、どんちゃん騒ぎ、喧嘩に明け暮れる生活を送る、不良リーダーのジョニー。ある日、族の仲間たちと遊びにいったバイクレースの帰りに寂れた町にたちよりカフェの美しい女、キャシーと知り合う。
しかしこの町でも騒ぎ起こし、事故で住人1人が死んでしまう。自分でも本当は何がしたいのか、何に反抗しているのかわからない青年ジョニーと、純粋無垢に生きてきた女キャシーとのやり取りで、不良の心に何かが芽生えていく。
1947年、アメリカ、カリフォルニア州ホリスター暴走族による暴動事件、ホリスター事件が題材になった言われている作品。
この映画では、なんといってもジョニー役のマーロン・ブランドのファッションスタイルが際立っています。ブーツにロールアップしたジーンズ、そしてライダースジャケットを身に纏ったスタイルが後の暴走族たちのイメージをより強烈に世に知らしめることになったはずです。
イギリスでは、当時この映画は上映禁止になるほど。不良たちの青春を美化して暴走や破壊行為を促すと懸念されていました。
マーロン・ブラントは映画の中で、最初から最後までずっとライダースジャケットを着ています。バイクに乗るときにはジップアップ、カフェで繕いでいるときは途中まで開けて、黒ネックのTシャツが姿をあらわし、ワイルドさと若さを炸裂させています。
キャプテン・アメリカとビリーのバイクでのアメリカ横断の旅を描く作品。時計を捨て、無計画な旅に出た。束縛されない生き方に憧れを持つ社会になる一方で、自由に生きる2人が出会うアメリカ市民はさまざまな感情をいただく。拘置所で出会った弁護士、ジョージ・ハンセンと意気投合し共に旅をするが、アメリカの大地を進むごとにアメリカ社会の風当たりは強さを増してくる。ライダーのイメージを決定づける、不朽の名作。キャプテン・アメリカが着用していたライダースジャケットも、世界中のライダーのアイデンティティとして刻まれることに。
キャプテン・アメリカ役のピーター・フォンダ、そして監督でもある脇役ビリー役のデニス・ホッパーの2人がアメリカの大地を横断する姿は、バイクには自由が宿っていると思わせてくれます。 バイクで旅ををするイメージの多くのは、この映画にあると言っても過言ではありません。日本での上映後にも多くの若い世代のカルチャーに影響を与えた作品です。
普段着であり、バイクに乗る時のフォーマルとも言えるライダースジャケットは、ライダーにとっての重要なアイコンです。単に利便性や保護性から生まれたというよりも、唯一無二のスタイルを築いてきました。
産業の発展と戦争を経て、社会に疑念を抱く若者たちの心を掴んだのがモーターサイクルの存在です。暴力や格差に対する違和感や嫌悪感を抱く無垢な若者たちが、ユートピアに向かってバイクに跨っていたのかもしれません。
レザージャケットでありながら、他とは一線を画するライダース。このスタイルは、ライダーであるかどうかを超越して、反骨精神をいただく全ての人の心に突き刺さるスピリットを宿しているのではないでしょうか。
ライダースはロックに生きるすべての人に、寄り添ってくれる親友にようなものだ、と私は考えています。