日本ではライダーのヘルメット着用義務は1965年からはじまりました。でもその時はまだ罰則はなく、本格的に罰則が適応されるのは1972年からです。ヘルメット着用義務の歴史はまだ浅く、つい最近までノーヘルでOKだった時代があったのだと驚きます。
バイク事故の死因は頭と胸への衝撃がほとんどです。警視庁の数値で見れば、頭部50%、胸部25%、腹部10%なので死因の半分が頭部、つまりヘルメットで守られるべき『頭(あたま)』ということになります。
今でこそ全てのライダーが着用するヘルメットなのですが、その寿命については意外と語られることがありません。
などなど、ヘルメットの気になるポイントについて交通安全のスペシャリスト、白バイ隊員だった大先輩に伺ってみてみました。寿命切れが原因で守れなかった命もあるとのこと。年がら年中行動でバイクに乗っているプロ中のプロはヘルメットをどう扱っているのでしょうか?いろいろ教えてもらうことができたのでまとめています。今回はヘルメットの大切さに迫ってみましょう。
ヘルメットにはさまざまな安全性の規格があるのはご存じかと思います。
国産の規格では
海外の規格で有名なのが
など。中でも、国産の信頼出来るバイク用ヘルメットにはSGマークのステッカーが貼付されています。
SG規格とは一般財団法人製品安全協会が定めた安全基準をクリアした製品に付いているマークのことです。SGマークが付いている商品の欠陥が原因で、事故やケガがあった場合は最高1億円の保険金が支払われます。
このSGマークの有効期限が「購入から3年」であるためヘルメット製造会社もヘルメットの耐用年数は3年としているのではないかと思われます。
ヘルメットは人によって使い方が全然違います。白バイ隊員のように仕事で毎日のように被る人も居れば、ツーリングに行くときしか被らない人もいるはずです。
さまざまな理由でヘルメットの内装や衝撃を吸収する発泡スチロールなどは劣化していきます。衝撃吸収材が劣化して縮んでしまっていたり、事故などで衝撃を受けたヘルメットは耐用年数前であっても直ちに交換すべきです。
SGマークの有効期限が3年ということは、万が一のとき被っていたヘルメットが原因で事故・怪我をしても「3年を過ぎていたら保険金が出ない」ということですから3年を目安に交換してくださいね、ということなのです。
白バイ隊員員も3年毎にヘルメットを必ず交換しています。
今回は自分と大切な人の命を守るヘルメットについて真剣に考えてみましょう。
冒頭にもお話しした通り、二輪車死亡事故の約半分は頭部への損傷で、あいにくこの結果は毎年ほぼ変化はありません。
かつて私が交通捜査係の班長をしていたときも、頭部損傷による悲惨な死亡事故を何度も扱ってきました。
その中には「ノーヘル」や俗にいう「半帽・半キャップ」と呼ばれるヘルメットを被っていたり、あご紐を装着していなかったために重大な結果となってしまった事故もありました。
逆に耐用年数期間内の劣化していないヘルメットを被っていたから命が助かったと思われるバイク事故もいっぱい取り扱いました。
だからこそ自分の命を守るために信頼出来るメーカーのヘルメットを購入すること、定期的なヘルメットの買い替えが必要であると声を大にして皆さんにお伝えしたいのです。
日本人でよかったとも思えるのは、世界有数のトップヘルメットメーカーが存在していることです。
両者に甲乙は付け難く、どちらを選んでも最高品質の安全性とデザイン製を手にすることができます。
RX-7X
(画像元 : Amazon.co.jp)
RAPIDE NEO
(画像元 : Amazon.co.jp)
ちなみに私はこのSHOEI Glamsterのホワイトを愛用しています。
バイクヘルメットは決して安い買い物ではありません。ましてや一流トップメーカーのヘルメットは3万〜10万円、ものによってはそれ以上で高価な価格帯です。正直、3年おきに交換が必要と言われると躊躇してしまいます。とは言え、劣化したヘルメットで助からなかった命があると知ってしまった以上無視はできません。もう少し深く伺ってみましょう。
劣化は物理現象ものである以上で避けられません。知っている方も多いかと思いますが、ヘルメットの中身の衝撃吸収材は発泡スチロールです。
紫外線や風雨、潮風、ライダーの汗、内部の蒸れなど、さまざまな要因によりヘルメットの内部も劣化してきます。
はい、その通りです。最初はピッタリのサイズだったヘルメットが緩くなった…ということはつまり、内装のパッドや発泡スチロールが経年劣化で縮んでしまったということです。
ヘルメットは外側と内側の二重構造になっています。外側は頸部にできるだけ損傷を与えないため硬くそして滑らかな形状になっています。
そして内部では
仕組みになっています。一度でも大きな衝撃を受けたヘルメットは新品のように衝撃を吸収してくれません。
もちろんです。どうしてか、というと答えは簡単です。
衝撃を吸収しきった衝撃吸収剤は衝撃をこれ以上吸収することはできません。ではどうなるのか?吸収してくれなかった衝撃はライダーの頭部、つまり頭蓋骨を経て柔らかい脳に直接伝わってしまいます。かなりの衝撃ですから死亡に至るのです。
前回の事故で守ってくれたヘルメットは、次の事故で守ってくれるということはないと思ったほうが賢明です。
だからこそ衝撃を受けたヘルメットは、たとえ耐用年数内であっても直ちに買い替える必要があるのです。
メーカーとしては、シート高くらいであれば問題ないとしているようです。ただ、走行時に転倒した場合など強い衝撃が加わっている場合には検査してもらうことも可能みたいです。
AraiのHPに記載されているFAQを引用します:
オートバイのシートから、または、手に持っていた程度の高さから、不注意で落としたくらいでは、たとえ地面がコンクリートであっても大丈夫です。外観の塗装がはがれる程度なら、安全性能に問題はありません。ただし、走行中に転倒して衝撃を受けたり、故意に地面に叩き付けるなどしてシェルに傷を負うような衝撃を与えた場合には、使用しないでください。
(引用元:Arai )
こうしたメーカーからの情報もしっかり読んでみるとヘルメットについてのいろいろなことがわかり楽しいです。
さらに「このヘルメット、衝撃を受けてしまったかも。大丈夫かな?」というユーザー向けに再使用可能か検査するサービスもあります。
(画像元:Arai )
謝って傷が付いてしまったヘルメット、どうやって傷を隠すことができるのでしょうか?私もうっかり傷を入れたことがあります。バイクと同じく、ヘルメットの傷も気になります。
そんな時は、コンパウンド、つまり研磨剤でクリア層と呼ばれる塗装の上に吹き付けられている層の凹凸を平滑にするか、深い傷が入って塗料が取れてしまった場合には『タッチアップ』という方法があります。
クルマやバイクのボディ塗装に小さな傷が入ってしまった時に、傷を上から同じ色で塗る(タッチアップ)ことで傷を目立たなくすることです。
タッチアップでよく使われるメーカーとして、二社のアイテムを紹介します。
ホルツは1919年創業、イギリス発祥の世界的なメーカーです。
ペンタイプのタッチアップ
(画像元:Amazon.co.jp /タッチアップ 補修ペン カラータッチ つや消し黒 )
ガンタイプのタッチアップ
(画像元:Amazon.co.jp / 筆塗りカラータッチ専用 タッチガン AIR PLUS Holts )
(画像元:Amazon.co.jp /塗りあと整えパッド )
(画像元:Amazon.co.jp /タッチアップペン X-1 つや消し黒 17101)
一度でも事故ったヘルメットはもちろんNG、さらに謝って落としてしまったヘルメットも残念ですが使えないことがよくわかりました。そのほかにもヘルメットの寿命を見極めるポイントを伺ってみました。
見た目にボロボロなのは間違いなくNGですね。以下のような場合はヘルメットの買い替え時期となります。
たとえ今さっき購入したピカピカのヘルメットであっても、以下のような場合は耐用年数に達していなくても即買い替えです。
ヘルメットにはいかなる衝撃も与えないのが鉄則です。ヘルメットの衝撃吸収力は万が一の事故のときに100%発揮してもらってはじめて大切な頭を守ります。
内装とはどの部分をさしているでしょうか?もし交換可能なパッドなど内装を指しているのであれば、それはもちろんNGです。
インナーパッドはヘルメットと頭部とのフィッティングを快適にするためのもので衝撃吸収材ではありませんから。
多少は衝撃を吸収してくれるかも知れませんが、あくまで衝撃を吸収してくれるのは発泡スチロールです。
内装交換は内装を清潔に保つ、フィット性を回復させるといった快適性の向上・回復には役立ちますが、衝撃吸収能力は回復させることは出来ません。
バイクのヘルメットは、頭を衝撃から守るようにできていて一度でも衝撃を受けてしまったものはもう使い物にはならないことが、身に染みるほどわかってきました。
とにかく大切に扱って、衝撃を与えないことが必須です。ここからはヘルメットを扱う上での作法について教えていただきましょう。
ヘルメットは脇に抱えて手指でしっかり把持して、絶対に落とさないように取扱いましょう。みなさんはアゴ紐を持ってプラプラさせてはいないでしょうか?
一見問題ないように思えますが、バイクや壁にぶつけてキズ付いてしまうケースが多くあります。
路面に落下させないよう注意しましょう。よくあるのが、ミラーにかけてしまう、あるいはシートの上に置くなどです。非常に不安定ですし、自分ではない他人がひっかけて落とされるということもあります。
こんな置き方では、ちょっとした力が加わっただけで落下してしまいそうです。
おすすめとして、盗難防止の観点からも
おさめておくのがよいでしょう。
落下やぶつけの原因を取り除くことが大切です。
ミラーやシートに無造作に置いておくよりよほどか地面のほうがよいでしょう。ただ地面は足で蹴られてしまう懸念が残ります。
蹴られるのを避ける方法としては、休憩する時にはサイドスタンドを立てますよね。そしてハンドルを左に切るとバイクが安定します。その前輪左側後部の路面にヘルメットを置くと他の通行人にヘルメットを蹴られる心配がなくなります。
汚れが気になる人はグローブを路面とヘルメットの間に敷くと良いです。
ヘルメット表面は紫外線、雨風に常に晒されています。内装も蒸れや汗などで汚れてしまい放っておくと経年劣化がどんどん進んで寿命が短くなってしまいます。
ちょっとしたお手入れをすることで劣化を遅らせることができます。
帽体表面が汚れたら濡らしたウエス(布切れ)で水拭き、乾いたウエスで乾拭きした後にヘルメット保護材(プレクサスなど)をウエスに軽く吹き付けてから、ムラのないよう十分に吹き伸ばしておくと艶が出て劣化を防ぐことが出来ます。
(画像元:Amazon.co.jp /クリーナーポリッシュ (国内正規品) PL368)
●マイクロファイバークロス
(画像元:Amazon.co.jp /KIRKLAND マイクロファイバータオル 36枚 )
シールド表面にも虫や汚れが付着します。シールドは視界に直接的な影響があるため特に綺麗に保っておきたいパーツです。
シールドんメンテナンス時にはキズがつかないように気をつけましょう。キズが付かないように柔らかいウエスを使用すること、使用するケミカル用品・保護材によっては帽体用、シールド用のウエスは区別することをおすすめします。
●シールド専用のクリーナー
(画像元;Amazon.co.jp / YAMALUBE ヘルメットシールドクリーナー)
●シールド外側の撥水剤
(画像元:Amazon.co.jp / YAMALUBE ヘルメットシールド撥水剤)
雨天時の視認性向上のためシールド裏側には曇り止め剤を使用すると良いでしょう。
●シールド内側の曇り止め
(画像元:Amazon.co.jp / YAMALUBE ヘルメットシールドくもり止め)
●便利なクリーナ&撥水剤&くもり止めの3点セット詰め合わせ
(画像元:Amazon.co.jp /ヤマルーブ バイクヘルメットシールド用 ケミカルセット(3本セット) 各20ml )
ロングツーリングなどにあればとても重宝します。
汗やムレは匂いも気になりますが、思いのほか内装を劣化させてしまいます。定期的に中性洗剤で手洗い後よくすすいで陰干ししておきましょう。洗うことがインナーパッドの寿命を伸ばすことにもつながります。
●衣類用の中性洗剤
(画像元:Amazon.co.jp / ウタマロ リキッド 400ml )
このタイプは汗拭きシートや消臭剤などを駆使して内装を清潔に保つようにしましょう。
●ヘルメット用の消臭剤
(画像元:Amazon.co.jp / MOTUL M2 ヘルメット・インテリア・クリーン)
大雨、汗、ムレなどで内装(パッド)だけでなくヘルメット内部全体が湿気ってしまったときはヘルメットごと乾かすことになりますが必ず直射日光は避けて陰干しをおすすめします。紫外線はヘルメット内・外装の劣化を早めてしまいます。ちょっとしたことですが、これもヘルメットを長持ちさせる方法の一つとして知っておくとよいでしょう。
私は仕事でヘルメットを毎日被るのでインナーキャップを被ってからヘルメットを着用していました。
(画像元:Amazon.co.jp / RS TAICHI クールライド・ヘルメット・インナーキャップ)
これだけでかなり内装の汚れ防止になりました。パトロール終了後はインナーキャップを洗剤で洗って干しておくと、翌日には乾いており、快適に着用することが出来ました。KOMINE Cool Max インナーキャップですとすぐ乾き夏場も快適です。
夏用バイクヘルメットインナーキャップ
(画像元:Amazon.co.jp / KOMINE CoolMax インナーキャップ)
バンダナタイプもあります。
ヘルメットの大切さをお話しさせていただきました。自分と自分の大切な人の命を守るヘルメット。お手入れの際にキズ、ヒビ割れ、アゴ紐のほつれなどの点検をして異常を発見したときは早めの交換をするようお願いします。
頭部損傷の次に重大事故に繋がる胸部損傷防止のため胸部プロテクター、着用型エアバッグなどについても今後お話しさせていただきます。
最高の趣味バイクで絶対に命を落とすようなことがあってはならないのです。みなさんもどうかいつまでも幸せなバイクライフを過ごしてくださいね。
レザーアイテムの老舗DEGNERのアイテム集!元白バイ隊員の大先輩。現役時代に公道で出会わなくて本当によかったと思いつつ、いまは大切な仲間の一人です。とは言え、37年間白バイで公道の治安を守ってくれていた方としてのリスペクトを忘れることはありません。
今回はヘルメット選びの基礎から、衝撃を受けたヘルメットの危険性、さらには寿命を長くさせるためのメンテナンス方法まで親身に教えていただきました。
「読者のみなさまの安全のためなら」ということで出し惜しみなくご自身のご経験から語っていただきました。インタビューへのご快諾、本当にありがとうございました。
● 初心者ライダーへ、ヘルメット選びに悩んだらまずこれを読んでくれ