神奈川県でガレージライフを送る山崎さんのガレージにお邪魔してきました。
たまたまバイクに乗って出かけようとしていたところ、声をかけてくれたのがきっかけでした。
「いやぁ、ハーレーはかっこいいねぇ」
そうやっていろいろ話をしているうちに「今度うちに来なよ」ってなことで誘っていただきました。
行ってみると、驚きのコレクションでした。バイクに乗っているとおもしろいこともあるものです。
ヴィンテージハーレーのネジ一本までオリジナルにこだわる、そのガレージでのライフスタイルに迫ってみました。
:バイクに乗りはじめたのはいつだったんですか?
バイクは10代のときからずっと乗っていました。高校のときだから、、、16歳か。しかも当時は無免許で乗ってたんです。
でも18歳になったときに車の免許からとったんです。それからは車にどっぷりでした。
でもやっぱり所帯もってひと段落するとなぜか、バイクの味を思い出しちゃうんですよ。
ある時、車で近くを走っているときに信号にひっかかったんです。そうしたらね、2台のローライダー(Harley-Davidson)が目の前を曲がって走ってきたんですよ。それがかっこよくてねぇ。
低くてさ、足もこう前に突き出した感じのアングルにシビレちゃってさ。「こりゃかっこいいぁ!」って、もうイチコロですよ。
:それがハーレーとの出会いだったわけですね。
そう。それがきっかけでハーレーに乗り始めてずっとハーレーです。
:当時は何に乗っていたんですか?
一番最初は、ショベルに乗っていました。
:ちなみに、ショベルに乗り始めたのはおいくつの時ですか?
たしか20代の後半かなぁ。それ考えると本格的にバイクに乗り始めたのは遅かったですよ。ショベルには約10年乗りましたね。
当時乗っていたショベルには、エイプハンガーのハンドルをつけて、鉄棒にぶらさってる感じで乗ってたんです。
これがかっこいいと思って自分なりに楽しんで乗っていたんですけど、ある時ミラーに映ったのをみちゃったんです。後続車にいるアベックが僕を指差してケラケラ笑っているのを。
まぁ、世間にはかっこよくは映っていなかったんでしょうね。まぁいろいろな見方がありますから。それに当時はとんがっていたんでしょうね。
いろいろやってわかったのは、やっぱり純正が一番だってことです。カスタムに走ったショベル時代を経て、ナックルに乗るようになったんです。
:ナックルに乗り始めたきっかけには何かあったんですか?
それがね、ヴィンテージショップに足を運んだ時のことです。そこにたまたま『リジッドフレーム』のハーレーがあったんです。「欲しいなぁ」と思っちゃったんですよ。
:カスタムって楽しいんですけど、完成されたものを崩してしまうので本来の美しい姿を保つのが難しいんですよね。
純正で買った人は大なり小なり一度はカスタムに走るんです。そしてまたいつかは純正に戻ってくるんですよ。
:まさしく。
自分でもいろいろいじって、いろんな人がいろんなバイクを乗っている姿を見ているとさ「やっぱオリジナルってかっこいいよな」なぜかそう思えてくるんです。
ショベルから乗り換えたナックルは、元々のオーナーがメッキ好きだったからギンギラギンでした。
正直僕のテイストじゃなかった。じゃ何がよかったかって、『純正度』が高かったことです。
:ここにあるものきっとどれも純正品だと思うんですけど、入手経路は?
ナックルの部品を集め始めた最初のきっかけは『デイトナ』です。
:デイトナバイクウィークですか?
そう、あそこにいけばいろんな部品がフリーマーケットで並んでいて当時は喉から手が出るほどのお宝があちこちにあったんです。
:まず何から探しましたか?
まず最初に、テールライトの『トゥームストーン(墓石)』を探しに行ったんです。
でもそうしたら今度はウィンカーも気になり始めちゃって。
:ここまで揃えるのに、どのくらい買い付けに渡米されましたか?
う〜ん、アメリカに3、4回行ったらだいぶ揃ってきたのかな?
:毎年ですか?
いやいや、さすがに毎年はいかないよ。3年に一回かな。だって、一番最初に行ったときなんて、100万円握っていったんですよ!そうしたら赤字で帰ってきちゃいましたもん笑
:毎年行っていたら、そりゃ身が持たないですね(笑)
当時まだ若かったんですけど、黒い大きな布製のバッグを持っていったんです。帰るときには60キロくらいになっちゃって。もちろんそんな予定はまったくなかった。
しかもそれ機内持ち込みだよ?帰ってきてよくよく考えたら、あんなのよく持って帰ったたよなって思っちゃう。だって60キロですよ(笑)
:成人男性一人分ありので、パーツ分のチケットもいりそうですね。
でも重量なんて忘れるほど興奮しちゃってたんだろうね。
「こりゃもう絶対持って帰らなきゃいけない!」って張り切って持って帰ったの。
デイトナで買い漁ったパーツはその日のうちにホテルで全部包んでさ。日本から持ってきたプチプチ(梱包材)で一晩中かけて包むのよ。
それからアメリカの面白さがわかってきちゃったんだよ。
日本にはない、”何か”があっちにあるんだよ。言葉では説明できない何かが。大陸も広くて大きいしね。
だってさ、サッカー場二面、いやもっとか?とにかく広大な土地でスワップミートをやってたりするわけ。
そこでは、コンテナにいろんなパーツを詰め込んできては会場で広げてるんです。
それでいて、ぐるっと回ってまた戻ってみるとまた違うパーツが並べられてする。
行く前には、「あれとこれが欲しいな」と一応頭に入れていくんです。思っていたものがないと、コンテナの中まで覗いてみて回りました。
:そうやって集まったパーツがこれですよね。
こうやってあらためてガレージ見てみると、まぁよく集めたもんだねぇ。いっぺんに買ったわけじゃなく、時間をかけて徐々に増えていったから極端に驚くほどじゃないけどね。
:数十年の積み重ねですね。ちなみに何年かかりましたか?
正味30年ってところですかね。
今は2台ですが自分でつくった車両も結構あったんですよ。フレームと腰下エンジンだけ購入して、あとはパーツを集めて完成させてね。最終的には乗りたい方にお譲りしてきたんですが、いや〜大赤字ですよ笑
(写真:Harley-Davidson WL)
で、これがつい先日まで乗ってたサイドカーです。
:それで残っているのは、このナックルとそこのトッパーというわけですね。
今ここにあるバイクは2台なんですけど、過去には5台のハーレーが収まっていました。ただ数多く所有してると一台一台への愛情が薄れてしまうので、いまはあえてこの2台に絞ることにしたんです。
:ちなみに、ナックルヘッドっていくらぐらいするんですか?
おもしろいことにずっと値上がりし続けているんです。純正度の高いナックルは40年代(41~47年)物で600~800万程度で売られています。(※イタンビュー当時 2018年)
中でもオリジナルペイントのナックルは1000万円は超えています。社外品の多く付いているナックルは300万から500万位です。
船場モータースさんところで、前のオーナーさんもほとんど乗っていなかった状態のいいナックルがでていましたけど、それで1300万円くらいでした。それだってまだ安いほうですよ。
ナックルで、もっとも価値があるのは1936年式の初期型ナックルヘッドで、2000万円以上しますからね。フェラーリ買えちゃいますよね笑
:本国アメリカではどのくらいの相場なんですか?
今ではアメリカの方が高い場合がありますよ。以前はアメリカの方がぜんぜん安かったんです。だからみんなわざわざアメリカまで渡って買い求めてたわけです。
たとえば、日本で1万円するものが向こうでは5千円しなかったんです。
とはいえ、マフラーだって一本状態の良い物で50万~80万円くらいの値が平気でします。
中にはクラッシュしてるやつもあるんですけど、まったく関係ないんです。むしろクラッシュしてるほうがいいっていうやつもいるくらいで。
ギンギラギンの新しいものじゃ逆に価値が薄れるんです。なぜかって、70年も経っているわけですから、その70年の歴史が伝わってくるものじゃなきゃいけないんです。
:人が使った形跡で歴史を感じられる。アンティーク家具と同じですね。
そうなんです。要するに、この古さを感じられないとね。古くて、かつ『純正』に価値があるんです。
:社外品であれば今でも作れる、でも当時の純正品はそうもいかないですからね。
そう、だから僕らみたいなコレクターは社外品は眼中にないんです。おもしろいのは、スワップミートにいくと、社外品はそこらへんに蹴飛ばしてあるんです笑
:最近参加されたスワップミートではどうでしたか?
最近はもう行っていないね。最後に行ったのが8年ほど前にいったスワップミート。アメリカのダベンポートってところに行ってきたときの話です。
シカゴからプロペラ機でダベンポーとまで飛んで、そこからさらに車で30分ほど走ったところにアメリカ最大のスワップミートが開催されていました。
スワップミートだからスタージスとか、ああいうものじゃないんですけどね。それでも、あまりにも広くて、そしてあまりにもいろんなものがありすぎて開いた口がふさがりませんでした。
ただ、残念ながら欲しいものがない。昔ほどなんでも手に入るような状態じゃなくなっていたんです。むしろネットの方が手に入りやすい、そんな時代になったんです。
もちろん全くない、というわけじゃないですよ。だけどもうほとんどなかったですよね。そして、どんどん年式が上がってるからショベル以降のものが中心となってきてるんです。
:もしかするともっと値上がりするまで隠しておく人もいるのでは?
あるかもね、でも一昔前はそんなことはまったくなかったですよ。日本人が高値でいくらでも買って行ってくれるからね。
ある旧車専門のグループなんかは、特に日本人、アジア人には絶対に売らないんです。
アメリカのバイクだから、アメリカ国外に出したくないっていう気持ちがあるからでしょうね。だから日本人がくるとパーツを隠す人さえいます。
最近は特に、日本での販売価格が高騰してるから、アメリカでもそれに合わせた値付けをしてくる。そうなるとアメリカに行っても安く買えるという感覚はもうなくなってくるんです。ただアメリカの方がまだものが見つかる可能性はありますけどね。
これはみんな当時の純正品なんですよ。
:これ何ですか?
パーツとその箱です。今じゃ中身はからっぽの箱だけでも売らてるんですよ。あとはこれらボルトも純正品だけを集めました。
たとえば、これCPボルトって言われているんですけどオリジナルのボルトです。
ここに「1038CP」って書かれてるでしょ。1038はその年式以降です。チャンドラープロダクト(Chandler Products)っていうメーカーが作ったものです。
もちろん今はもう製造されていないものです。
私のは47年ですのでCP1035を使用しています。
:ボルト一本まで純正に仕上げることに価値があるということですね。ちなみに純正品のいいところってどんなところでしょうか?
純正品のいいところは、強度がしっかりしていることなんです。そこらへんにあるボルトとはまったく違いますよ。
僕なんかは、ボルト一つにもこだわっていましたからね。オーバーかもしれませんが、ボルト一つ探すためだけでもアメリカに行きたい!と思ったほどです。
なにしろ作りがいいんです。
:社外パーツなどサードパーティのプロダクトとどう違いますか?
例えばね、工具もスナップオンを使えば、寸分の狂いなくピタッときます。もしサイズが同じ違うボルトを使ったらガタつきを感じるのですが、純正を使うとそれがない。
工具もしっかりしたやつ使わないと、せっかく集めたボルトもすぐ頭をなめらしてしまうから。だからスナップオンを使っています。ただハーレー降りちゃったらなんの使い物にもならないですよ!
:純正にこだわりたくなる理由が見えてきました。ビンテージの奥ゆかしさも感じられます。
イジり始めたら時間を忘れてしまうんです。ここで夜中までごそごそしていると女房から「あんたバカなんじゃないの!?」ってね(笑)
:奥さんはこの高尚なご趣味についてどう思っていらっしゃるんでしょうか?
うちのは呆れてものが言えないほどだから、ノータッチです。結婚当初からクルマ・バイクが好きなことは知っていましたけど、でも実際女房にも内緒のものがいっぱいありますよ(笑)
:こりゃ数え切れないほどありそうです。
女房が聞いたら驚くようなものばかりですが、もう時効ですよ。
ただ言い聞かせているのは、「俺が死んだときに頼むから、これを千円、二千円で売るなよ」って。
:このメーターも気をつけておかないと、奥さんからガラクタ扱いされるのでは?
そうなんだよ。これ同じ1947年のメーターなんですけどね、マイル表示とキロ表示で違うんです。
特にこの47年式のキロメーター表示はほとんど存在しないんです。
あまり知られていないことですが、ハーレーの部品で『ガラス類』ってのが実は高値取引されるんです。ヘッドライト、ウィンカーなんかもそうです。
年式によって、ドーム型、フラット型いろいろあるんですけど予備としてこうして保管しているんです。
:ガラスは割れちゃうと修復できないですしね。
こちらはハーネスなんですけど、こうしてみんな布なんです。
いまとなってはみんなビニール加工されてますけど、さすがにビンテージバイクには似合わないからこれもこうして残しているんです。
ナックルだけじゃなくて、トッパーも結構集めましたからね。当分のあいだスペアパーツにはこまらないようにしています。
:ちなみに、このトッパーは現役ですか?
現役ですよ。音聞いてみますか?
:トッパーは初めてです。2ストサウンドとこのオイルの香り、ハーレーからだと新鮮ですね。
あとこれ、笑っちゃいますよ。ちょっとホーンの音聞いてもらえます?こんな小さな音で、あってないようなもんだよ(笑)
:エンジン音の方がデカかったですよね?
いやーほんとほんと。あんなセミみたいな鳴き声じゃ誰もどいてくれねぇっつーの(笑)
:燃料は混合ですか?
そう、燃料は混合で入れてあげないといけないんです。
:分離ですか?
分離じゃないんですよ。だから毎回混合したものを入れるんです。このキャップの裏についているこれで計量するんですよ。
面倒だから僕は最初から混合したものを作り置きしています。
:当時アメリカの人はどうしていたんですかね?オイル持ち歩いてたってことですよね?
そうです。とはいっても日常使いの原チャリですから、遠くにいくわけでもないし家に帰ってから入れても間に合うんですよ。
当時TOPPERは学生に人気があったようです。しかも特に寒い北側のところでよく売れたんです。
:なぜ寒い地域で売れたのでしょう?
風防というか、足に風があたらないようにフェンダーがあるでしょ?だから寒いところの方が好まれて使われていたようですよ。
逆に暑いところではあまり売れなかったそうです。トッパーは165ccだから本当は日本の高速走れちゃんですけど、パワーがないんです。寒さしのぎが唯一の強みだったとも言えますよね。日本だと、50ccの原チャリにも抜かれちゃいますよ笑
:実際どのくらいのスピードがでますか?
遅いと言っても時速60キロくらいはでますけど、国産スクーターと比べるなんてとんでもない。あっという間に抜かされちゃいます。
(写真:塗装前のトッパー)
:いつからこんなにハーレーをいじれるようになったんですか?
最初はハンドルの変え方ひとつすらわかりませんでしたよ。だから悪名高いバイクショップで変えてもらったことを今で後悔しています。
だって、ハンドルをドラッグライザーに変えてくれって頼んだら、工賃とらないかわりにハンドルは預けたままだったんですよ。
純正だから持っておけばよかった!オリジナルってのは絶対にとっておいた方がいいですよ。
1台目のショベルに乗っていたころはカスタムしたい気持ちが強かったですね。そのころサンダンスの柴崎さんと出会ったんです。
いまでも思い出に残るのは、ショベルヘッドのシリンダーをカスタムをしたことです。
当時ショベルヘッドのシリンダーは鉄製でした。柴崎さんのお父さんが金型おこしてアルミ製のものを作ったんです。その一号にしませんか、というものでした。
当時のショベルはすぐオーバーヒート気味になる特性がありました。それが見事に解決され、素晴らしい出来でした。シリンダーにも一番のシリアルナンバーを刻印してもらいました。
そのショベルは、あるバイクショップのオーナーに引き渡し、次に手に入れたのがこのナックルです。当時はまだ600万円ほどでした。
今でこそ、随分値上がりしましたけど、価値が上がり続けることも旧車の魅力の一つとも言えます。
中でも、36年式は安くても1800万、高くて2500万円の値がつけられるほどの価値があります。
ハーレーがすばらしいのは、古いからいいというだけではなく、作りもしっかりしていることです。特にメッキなんかも分厚くていいもの使ってますよ。
:ところで、若い頃にはどのようにして渡米の費用を捻出していたんですか?
会社勤めだったので、いろいろ考えながらお金を貯める必要がありました。例えば、通勤費が当時6ヶ月で7万円くらい支給されていたんですが、公共交通機関を使うよりもはるかに安く通勤する必要がありました。
封筒に現金がはいったまま渡されてる時代です。封も開けずに十何年も貯めていたんです。もちろん、賞与なんかもそのままとっておきました。
今でこそ海外に行くには10万以下でいろんなところにいけると思いますが、当時最低でも20万円はかかっていました。渡航費だけでも大変な金額です。
当然高い渡航費は支払えないので、団体のツアーを利用することで安く抑えていました。
あとは出張の空き時間ですね。当時勤めていたのは、ハンドメイドの靴屋さんでした。宮内庁御用達の高級靴を取り扱う会社です。
そこの手縫課というところに配属されていたのですが、革は海外から仕入れていました。
ある時、会社から仕入前に検品するよう言われ、検査員としてシカゴまで渡りました。仕事は半日で終えてしまうため、残りの時間をなんとか使えないか?そう考えたわけです。
そこで現地の人にこう聞いてみました。「俺はハーレー乗りなんだけど、近くでいいイベントないかな?」そうする「あるよあるよ!」と。
この検品の仕事も1回だけじゃなかった。何度かあったんです。だからその度に仕事を終えて余った時間を有効活用できたんです。
でも今では、もっぱらインターネットでパーツを集めています。
:ニセ物にひっかかったりはありませんか?
それが散々目で見て触れてきてるから、写真だけでも本物かニセ物かの見分けもついちゃんです。特別な技量でもなんでもないんです。それだけ触れてきた、ただそれだけなんです。
ライセンスプレートのボルトをちょっと見てください。厳密にはトゥームストーン(テールランプ)用のボルトなんですが、このボルトも純正のボルトなんです。このように見えないところまで細かく見ていくと、だんだんどれが本物でそうでないのかくらいはわかってくるんです。
:ちなみにこの筒は?
書類入れですよ。保険証とかね。後から取り付けたものですが、書類は現地のものです。
:多くのバイク乗りは奥さんの理解をえられないのですが、どうしてでしょうかね?
それはね、口が下手なんです。
:口下手だと、どうしたらいいですかね?
要するに、バイクに詳しい奥さんなんてそうそういませんし、専門用語を言っても理解してもらえるわけないんです。
たとえば、欲しいパーツがあるとしますよね。そうしたら「あそこの部品が一つなくなって参ったなぁ、ネットで頼もうかなぁ。」と何気なく言ってみるんです。
当然その部品がいくらするかも検討もつかないでしょうから「あら、なくなったの?じゃ買えばいいじゃない。」となるんです。
そんなことを繰り返していたら、いつのまにかこうしてパーツが集まってくるんです。まぁようするに、ペテン師ですよね。
:このガレージはペテン師御殿ってわけですね(笑)。
まぁこれも夫婦の形ですよ。だってよく考えてもみてくださいよ、奥さんの方が僕の上をいってることだってありえるんですよ?
これはあくまでたとえ話ですけど、罪にならなければいいじゃないですか?変に女性に走ってしまって家庭崩壊させるわけじゃないですから。
あえてもう一つのテクニックをお教えするとね、
:まだあるんですか?(笑)
あるんですよ。たとえば、スワップミーティングへ奥さんも一緒に連れていくとしましょうか?
でもここで買い物の予定があることは一切話さないんです。じゃ、どうするか?まず奥さんから得した気分にさせることです。
アクセサリーのコーナーに連れていって先に何か買ってあげるんですよ。それで喜んだら「俺もなんかひとつ欲しいなぁ」といえば文句は言われません。
:女性をまず喜ばせる。世の男性は勉強不足ですね。
:こちらのシートもそうやって集めたものですか?
これは違うんですよ。実はこれは自分で縫ったものなんです。僕は靴職人をやっていたから、レザーを縫うことなんてお茶の子さいさいだったんです。
ビンテージ乗りの中には当時からの経年劣化が進んだボロボロのシートを好む人もいますが、僕は張り替えたものが好きです。
シートについて語ればまた長くなるんですけど、シートのクッション材に何が使われていたか知っていますか?
:何が使われていたんでしょうか?
馬の尻尾や、たてがみが使われていたんです。実は中にたくさん敷き詰められていました。昔は今と違って、スポンジが手に入らない時代でしたから動物の毛を使っていたりしたんです。
本当は、ミシンで縫われるんですけど僕はあえて手縫でしています。なぜかというと、ミシンで縫うと縫い目のピッチが細かくなるんです。そうすると乗った時にかかる負荷で糸が皮を引きちぎって抜けやすくなるんです。
3ミリ幅を5ミリ幅にしてみたり、手縫ではそうした調整がきくため強度を強めることできるからです。
:この部屋はもともと何の部屋だったんですか?
ここは、もとからハーレーをいれるために設計したんです。盗難防止も考慮した設計になっています。だから最初からハーレーをイジる部屋にしています。ここでなんでもやっていますよ。塗装もやっていました。タメさんっているでしょ?
:ハーレーメカ談義のですか?
そうそう、彼は塗装専門家でもあるからいつも遊びにいっていたんだけど、そうするうちに塗装も覚えちゃって。あのトッパーも自分で塗装したんですよ。
今はさすがに匂いなんかで苦情がきちゃいけないから塗装はしてないけどね。最近は、地域のために貢献したいと思っているんでなおさらね。
そうそう、このBucoのヘルメット、これも自分でやったんです。
当時入手したときは、ボロボロでしたよ。だから塗装も、中のクッションも縁のレザーも全部遣り替えました。そこまでやる価値があるのは、やはりBucoのヘルメットってかっこいいんです。
実は、顎に向かってシャープになってるんです。横に広がらないから頭も小さく見えてスタイリッシュ。
:年代物のBucoは初めてです。今はトイズマッコイからレプリカが出ていますよね。
トイズマッコイの岡本博さんとも一緒にバイクを見にったり、アメリカでも何度かあっていました。
彼もハーレーに長く乗っているし、パーツ探しに協力してもらったこともありました。
サイドバルブを製作するときに、ユニティ製のライトボディを譲ってくれたんです。そのお礼に僕もシートを縫ってあげることもありました。
ハーレーにこうして長く乗ると、こうした人間付き合いがいつの間にか形成されていんくですよ。
なぜこうした仲間とのつながりができてくるかというと、昔は現代の洗練されたハーレーと違って壊れることが前提というくらい本当によく壊れるんです。
いや、壊してしまうと言った方がよいしれません。ちゃんと整備すれば壊れることはないのですから笑
いずれにしても困ったシチュエーションにおいては、お互いのリソースを持ち寄って助け合うわけですよ。
それこそ昔は道路の真ん中にクルマが止まることなんて当たり前で、そうなったら誰が助けにきたりもします。
誰かきてくれればいいですが、いざとい時には自分でも直せないといけませんよね。そうするうちにいつの間にかイジれるようにもなりますし、自分が知らなければ仲間を頼って教えてもらったりね。
アクシデント、トラブルがごくごく当たり前の時代に育ってしまったから、逆に故障しないのは手持ち無沙汰になっちゃうんです。
決して故障してほしいというわけじゃありませんよ!でも、少々の故障くらいなんてことはないんです。
直せば、バリバリに走りますから。エンジンからオイルがポターンなんか常識ですよ。もし漏れたとしても、「あ、漏れてる、ペロ」ってな具合で舐めるくらいですから。
:爆笑 いや舐めはしないですよ笑
え、舐めない?だって、漏れてるのがガソリンかオイルか舐めなきゃわかんないじゃない笑 オイル一滴舐めたくらいで死にはしないからさ!
:いつかはハーレーに乗りたい、という読者もたくさんいるのですが、これからのライダーに向けて何かメッセージをいただけないでしょうか?
古くても腐っててもハーレーっていうくらい、ハーレーが好きってのはみんな同じじゃないですか。
僕はたまたま旧いのに乗っていますが、だからと言って新しいのが嫌いってのも全くないんです。むしろ近年のハーレーはどんどん洗練されてきているし、いい乗り物には違いないですよ。
『ハーレーダビッドソン』という名前に憧れる人もいれば、一発いっぱつの音に惹かれる人もいます。
共通して言えるのは、『ハーレーが好き』でハーレーに乗っているということです。
ハーレーが好きということは、手に入れたバイクに対する理解を深めるということだと思うんです。
だからこそ、自分にピタッとくる一台をしっかり見極めるとハーレーの奥深さも感じてもらえるのかなと思います。
年式やコンセプト、特性を知ることもそうですし、どんなに壊れないバイクであったとしても、オイル管理に気を配ってみたり極日常的なメンテナンスが大事です。
壊れないから大丈夫、だから放ったらかしでは寂しいですよね。ネジ一本でも触れていれば、バイクのことってわかっていくんです。
バイクの構造もわかれば、チェーンに必要な遊びまで徐々にわかってきます。そうすると今度は、バイクから伝わる異変にも気がつくようになるんです。
こうならなければならない、ということではないんです。要するに、そのくらい大事に乗ってもらいたい、という気持ちです。
カスタムもいいでしょう。ただバイクは所詮走ることが目的ですから、あとで大変な目に合わないように注意も必要です。
僕もさんざんやってきましたからね。だからこそ言えるのは、メーカーが作り上げた”オリジナル”も楽しんでもらいたい。なにしろ、ハーレーってかっこいいんですよ。
:だからこそみんな憧れる。それでも年齢や体力を気にしちゃって、一歩踏み出せずにいる人も大勢いるんですよね。
こういうと口が悪いけど、バイクなんてバカでも乗れるんです。最低限の力やバランス感覚はいりますが、バイクなんてバランスさえとってしまえば指一本でも支えられるんです。
アクセルひねったら走ることを思えば、国産でもそれは同じです。
ただ一つ、『取り回し』にみなさん苦労されるんですよね。
だからハーレー乗りになりたい!と思ったら、ちょっと筋力をつけるんです。
:特にどこの筋力が大事だと思われますか?
腕、足だよね。平坦で広い道を走るだけじゃないですからね。筋力意外の部分でいえば、足つきを改善するだけでも随分快適になります。
たまたま止まって足をついた道路が凹んでいるだけでも、足つきがギリギリのバイクに乗っていれば、簡単に立ちゴケしてしまいます。足つきがよければ少々踏ん張ることもできるでしょう。
ちょうど先日の話です。FLHのツーリングモデルに乗っている人が、交差点で車体を倒しちゃったところをたまたま通りすがったんです。
一人ではとてもバイクを起こせない様子だったので、思わず駆け寄ったのですが、自分のキャパを超えたバイクを選んでしまうといざという時に困るんです。
だから身の丈に合うバイクを選ぶべきです。カスタムも最初から行き過ぎたものにせず、無理のないフォームで乗れるように調整すれば大きな車両でも以外と楽に乗れるんです。だから、取り回しに必要な最低限の筋力さえあればハーレーは乗れます。
:ちょっと待ってください、その腕を見せられると怯んでしまいます(笑)
いやぁ、これはなぜこんなになったかと言うとね、実はハーレーをガレージの外に出すにはこうやって持ち上げて角度を変えてやる必要があるのよ。
:なんですって、持ち上げる!?
バイク持ち上げるくらい常識だよ。
:そんな常識聞いたことがありません(笑)
ナックルは乾燥重量で250キロだから、後輪だけだとせいぜい100キロくらいにしかならないですよ。だからちょっとしたウェイトトレーニングくらいのもんだよ。
:これじゃ普通の人はマネできないですね(笑)
いやこのくらい誰でもできるよ。若い頃はもう少し力があって、軽トラックの後ろの荷台を持ち上げウエイトトレーニングしてたからね。
昔、そこの道幅が3mほどしかない道路だったころにね、誰かわからないんだけど車を駐車していったやつがいたの。それで頭にきて、バンパーをつかんで引きずって端っこに移動させてやりましたよ。
今考えりゃ車の持ち主もどうやって動いたのかわかんなかっただろうね笑
:全く参考になりません(笑)じゃハーレー乗るために何を食べたらいいですか?
肉です。僕も還暦を超えているんですけど、年齢ではありません。もしこのハーレーが重いと感じたときに僕はもう降ります。取り扱いに限界を感じたらハーレー辞めます。
:この様子だと80歳くらいまでは余裕ですね。
それをやんないとね!これはバイクに限ったことじゃないですよ。クルマでもね、怖くなったら辞めなきゃいけないんです。その恐怖感がある限り間違いなく事故起こしますから。
スピードも手に負えない、と頭をよぎるならそれは辞め時なんです。辞めたくないのであればスピードを落とさなきゃいけない。
とは言えハーレーってのはスピードを求めるバイクじゃないはずです。ハーレーVツインの魅力は、「ドッドコ・ドッドコ・ドッドコ」っていうあの歯切れのいい音にあるわけで、みんなあの音に憧れるわけですよ。
だとしたら、回転数あげて音が一つになっていくとそこには大きな魅力を感じられないと思います。
時速60キロ前後で走っているときのエンジンの振動とサウンドがハーレー乗りにはちょうどいい、気持ちのいい調和を感じるんです。
ハーレーの何が好きなの?って聞かれたら、やっぱり何と言ってもあのキレのある音、一発いっぱつのど迫力の鼓動感、これにどうしてもシビレちゃうんだよ、て答えるんです。
ガレージがある生活はおそらく全てのライダーにとって憧れのライフスタイルです。
かといって叶わない夢かというとそうでもないのかもしれません。
「ネジ一本でも触っていれば、バイクのことってわかるもんです」
山崎さんのこの言葉からガレージライフの本当の愉しみ方がわかったような気がします。
つまり、レンチ一本ジーンズのポケットに入れているだけでもガレージライフなのではないかと思うのです。
バイク専用に、屋根と壁とシャッターがあって、しかも広いスペースがあればそれは幸いです。
でもガレージがないからといってバイクをイジれなかったり、仲間との団欒がもてないこともありません。
ガレージのある仲間のところに行って、そこで育まれる交友関係だけでもガレージライフと言えるのではないでしょうか。
二つ返事でガレージに招いてくれるフランクさ、そして人情味に触れると、バイクに乗っていて本当によかったなと感じます。
ガレージはバイクも、音楽も、そしてコンピューターも誕生させる、なにか人間を創造的にしてくる、つまり人間的にさせてくれる何があるのかもしれません。
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